年金を繰り上げ受給したほうが良いケースとは?

― サイドFIRE後の「賢い年金戦略」を考える ―
最近、還暦を迎えた方から次のような質問をいただきました。
「現在60歳です。すでにサイドFIREしており、年金をもらわなくても当面の生活は成り立っています。この場合、年金は
① 60歳から繰り上げ受給して、浪費枠を増やして楽しむ
② 通常どおり65歳から受給する
③ 66〜75歳まで繰り下げ受給して、より豊かな老後に備える
どれを選ぶのが良いのでしょうか?」
非常に良い質問だと思います。なぜなら、今の段階でお金や老後について真剣に考えている人ほど、将来この問題に必ず直面するからです。つまり、この質問は決して特別な人だけのものではなく、いずれ多くの人が悩むテーマだということですね。
結論からお伝えすると、この質問者さんの状況であれば「繰り上げ受給」を選ぶのも十分アリだと考えます。
「え?年金額がかなり減るのに、あえて繰り上げ受給するの?」
そう感じた方も多いかもしれません。そこで今回は、その理由を丁寧に解説していきます。
まずは押さえておきたい年金受給の基本
日本の公的年金は、原則として65歳から受け取る仕組みになっています。しかし実際には、受給開始時期を前後にずらすことが可能です。
- 60〜64歳で受給開始
→「繰り上げ受給」
早く受け取れる代わりに、年金額は一生減額されます。 - 66〜75歳で受給開始
→「繰り下げ受給」
受け取り開始は遅くなりますが、その分年金額は増額されます。
65歳時点の年金額を100%とすると、
- 60歳から受給した場合:76%
- 70歳から受給した場合:142%
- 75歳から受給した場合:184%
この数字だけを見ると、「繰り下げ受給一択では?」と思うかもしれません。しかし、年金戦略はそんなに単純ではありません。ここからが本題です。
サイドFIRE達成者が「繰り上げ受給」を選ぶ理由
理由① 繰り下げ受給が「必ず得」とは限らない
年金額が最大184%になると聞くと、どうしても繰り下げ受給が絶対に有利に見えます。しかし、ここで忘れてはいけないのが寿命は誰にも分からないという事実です。
75歳から受け取るつもりで繰り下げた結果、74歳で亡くなってしまったらどうでしょうか。極端な例ですが、これは決してゼロではありません。
結局のところ、繰り上げと繰り下げのどちらが「得」かは、寿命という運の要素に大きく左右されます。だからこそ、「増えるから正解」「減るから失敗」と単純に決めつけることはできないのです。
理由② 長生きリスクへの備えがそれほど必要ない
繰り下げ受給の本質は、「長生きリスクへの保険」です。
- 思った以上に長生きしてしまった
- 老後資金が足りなくなった
こうした事態に備えるため、受給開始を遅らせて年金額を増やすわけです。その間は、労働や貯蓄の取り崩しで生活します。
しかし、すでにFIREやサイドFIREを達成している人は、そもそも資産に余裕があるケースが多い。
長生きリスクに対して過剰に保険をかけるよりも、今の人生をどう充実させるかのほうが重要ではないでしょうか。
理由③ お金の価値は「若いほど」引き出しやすい
年齢を重ねるにつれて、できることは少しずつ減っていきます。
若い頃ほど食べられない、
若い頃ほど体を動かせない、
若い頃ほど気軽に旅行へ行けない。
これは誰にでも起こる自然な変化です。
だからこそ、お金は「使えるうち」に使ったほうが価値を引き出しやすい。繰り上げ受給は、今だからこそできる経験を楽しみたい人にとって強力な味方になります。
理由④ 年金制度の「改悪」へのヘッジになる
よく「年金制度はそのうち破綻する」と言う人がいますが、これは正確ではありません。
年金制度は破綻しません。ただし、改悪される可能性は非常に高いです。
人口減少・少子高齢化が進む日本では、給付水準が徐々に抑えられていくのは避けられないでしょう。
だからこそ、「制度が大きく変わる前に、とっとともらって、とっとと使う」という考え方も合理的な選択肢の一つなのです。
理由⑤ 実は資産が増える可能性もある

意外かもしれませんが、繰り上げ受給のほうが結果的に資産が増えるケースもあります。
例えば、
- 早く受け取った年金をすべて使い切らず
- S&P500などの株式インデックスに長期投資した場合(年利7%想定)
このケースでは、繰り下げ受給した人よりも総資産が多くなる可能性があります。
「使うつもりで早くもらったけど、結局使い道がなくて投資に回った」という人にとっては、繰り上げ受給が結果的にプラスに働くこともあるのです。
まとめ:繰り上げ受給は「豊かな人の選択肢」

FIRE・サイドFIREを達成できるほど資産に余裕がある人にとって、繰り上げ受給は十分に合理的な選択肢です。
- 繰り下げ受給が必ず得とは限らない
- 長生きリスクへの備えが過剰になりやすい
- お金は若いほど価値を引き出しやすい
- 年金制度改悪への対策になる
- 投資次第ではトータル資産が増える可能性もある
もちろん、年金の受け取り方に「唯一の正解」はありません。
60歳で受け取るか、65歳で受け取るか、75歳まで待つか――それはその人の価値観と状況次第です。
だからこそ、お金にまつわる力をしっかり身につけ、「自分にとって最善の選択」を自分の頭で選べるようになってほしいと思います。