日本の公的医療保険制度を正しく理解する

私たちの人生には、予測できないリスクが数多く存在します。その中でも、病気やケガは誰にとっても身近で現実的なリスクです。どれだけ健康に気を配って生活していても、突然の体調不良や思いがけない事故によって医療機関を利用することは避けられません。こうした場面で私たちの生活を支えているのが、日本の公的医療保険制度です。
しかし、医療費の仕組みや給付内容について正確に理解している人は決して多くありません。「入院したら高額な医療費がかかるのではないか」「長期間働けなくなったら生活が成り立たないのではないか」といった不安を抱えている人も多いでしょう。まずは、日本の公的医療保険制度の基本を押さえ、病気やケガのリスクにどう備えられているのかを確認していきましょう。
日本は「国民皆保険」の国
日本の医療制度の最大の特徴は、「国民皆保険制度」を採用している点です。これは、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入し、必要な医療を受けられるようにする仕組みです。会社員や公務員は健康保険に加入し、自営業者や無職の人は国民健康保険に加入します。また、75歳以上の高齢者は後期高齢者医療制度の対象となります。
この制度の理念は、「必要最小限の医療を、平等に受けられる社会をつくる」ことです。高額な医療であっても、保険診療の範囲内であれば誰でも同じ条件で受けることができます。経済状況によって治療の可否が左右されにくい点は、日本の医療制度が世界的に見ても高く評価されている理由のひとつです。
原則3割負担という安心感
公的医療保険に加入している場合、医療機関で支払う自己負担額は原則として医療費の3割です。残りの7割は、健康保険組合や国民健康保険などの保険者が負担します。これにより、手術や入院といった高額になりやすい医療でも、自己負担を大幅に抑えることができます。
ただし、自己負担が3割であっても、治療内容によっては数十万円単位になることもあります。そこで重要な役割を果たすのが、高額療養費制度です。
高額療養費制度という強力なセーフティネット

高額療養費制度とは、同じ月に支払った医療費の自己負担額が一定の限度額を超えた場合、その超過分が後から払い戻される制度です。自己負担限度額は、年齢や所得区分によって細かく設定されています。
たとえば、現役世代で一般的な所得水準の場合、ひと月あたりの自己負担上限はおおむね10万円前後に抑えられます。これにより、仮に医療費が100万円かかったとしても、最終的な自己負担額は限定的になります。この仕組みがあることで、「医療費が原因で生活が破綻する」という事態を防いでいるのです。
健康保険と国民健康保険の違い
公的医療保険の中でも、特に保障が手厚いのが健康保険です。健康保険では、保険料を会社と本人が折半して負担します。そのため、保険料の自己負担は比較的軽くなります。また、配偶者や子どもを扶養に入れることができ、扶養家族分の保険料を追加で支払う必要はありません。
さらに、健康保険には傷病手当金という制度があります。これは、病気やケガで働けなくなった場合に、最長で1年6か月間、給与の一部に相当する金額が支給される制度です。収入が途絶えるリスクを大きく軽減してくれる点は、会社員にとって非常に大きなメリットと言えるでしょう。
一方、国民健康保険では保険料を全額自己負担する必要があり、傷病手当金のような制度は原則としてありません。そのため、病気やケガで働けなくなった場合の生活費については、貯蓄などで備えておく必要があります。
日本の健康保険制度は世界でもトップクラス

ここまで見てきたように、日本の健康保険制度は非常によく整備されています。原則3割負担で医療を受けられること、高額療養費制度によって自己負担額に上限があること、健康保険では休業中の収入補償まで用意されていることなど、総合的に見て非常に強力な社会保障制度です。
民間の医療保険に加入する前に、まずはこうした公的制度の内容を正しく理解することが重要です。公的医療保険でカバーされている範囲を把握することで、過剰な保険加入を防ぐことにもつながります。
病気・ケガのリスクとどう向き合うか
病気やケガのリスクを完全になくすことはできません。しかし、日本には強力な公的医療保険制度があり、私たちの生活を下支えしています。必要以上に不安を感じるのではなく、制度を理解したうえで、自分の働き方や家計状況に合った備えを考えることが大切です。
公的医療保険を土台として、貯蓄や生活防衛資金を整えておくことで、万が一のときにも落ち着いて対応できます。病気やケガに備える第一歩として、まずは日本の健康保険制度の強みを正しく知ることから始めてみましょう。