株価急落の画面を前に、人はなぜ不安になるのか

株式相場が大きく揺れるとき、画面に映る赤い数字を前にして、胸がざわつかない人は多くありません。これまで順調に増えていた資産が、ある日を境に音を立てて崩れていく。その光景は、投資に慣れていない人ほど強烈で、「このまま持ち続けて本当に大丈夫なのだろうか」「今売らなければ、すべてを失ってしまうのではないか」という不安が心を支配します。
近年も、トランプ米政権の関税政策をきっかけに、日米の株式市場は乱高下を繰り返しました。ニュースは連日「急落」「不透明」「警戒」という言葉であふれ、周囲からは「早く逃げたほうがいい」「今は危険だ」という声も聞こえてきます。そんな中で、売却ボタンに指をかけた人も少なくないでしょう。
しかし、ここで立ち止まって考えてみたいのです。株価が急落したとき、本当に「慌てて売る」ことが最善の選択なのでしょうか。
投資の世界に伝わる言葉──「稲妻の輝く瞬間を逃すな」
投資の世界には、古くから語り継がれてきた格言があります。
――稲妻の輝く瞬間を逃すな。
稲妻の輝く瞬間とは、株価がほんの少し上がる日のことではありません。プラス0.5%や1%といった穏やかな上昇ではなく、1日で4%、5%、あるいはそれ以上も跳ね上がる、まさに雷鳴がとどろくような日を指します。年に何度も訪れるものではありませんが、その一瞬に市場に居合わせたかどうかが、長期的な成果を大きく左右します。
その日をつかんだ人は資産を増やし、その日を逃した人は増やせない。きわめてシンプルで、同時に残酷な現実です。
20年間の検証が示す「持ち続けた人」の強さ
具体的な数字を見てみましょう。2004年末から2024年末までの20年間、100万円を全世界株式指数に投資し続けたと仮定します。途中で売らず、ただ保有を続けた場合、資産は約743万円にまで成長します。年率にして約10.5%。暴落も調整も経験しながら、それでも市場に居続けた結果です。
この成績は、特別な売買技術や相場観がなくても、「居続けた」だけで得られたものです。
たった10日で変わる運命──稲妻を逃した世界線

ところが、この20年間で株価上昇率が特に高かった「上位10日間」だけを逃してしまったらどうなるでしょうか。たった10日です。7300日以上ある期間の中の、わずか10日。その結果、資産は約349万円にとどまり、年率リターンは6.5%にまで低下します。
さらに上位20日を逃すと219万円、30日を逃すと149万円。最初から最後まで保有していれば700万円以上になっていたはずの資産が、見る影もなく縮んでしまうのです。
この数字は、「暴落時に市場から離れる」という行為の代償を、静かに、しかしはっきりと物語っています。
鬼ホールドできた人、できなかった人
ここでタイトルの回収です。
鬼ホールドができた人は、100万円を734万円にしました。年率10.5%増です。一方、鬼ホールドできず、株価が下がった局面で売ってしまい、稲妻の輝く瞬間を逃した人は、成績を大きく落としています。
この話をすると、必ず反論が出てきます。
「上昇率が最も高い10日だけをピンポイントで逃すなんて、現実的ではない」
「こんな計算は机上の空論だ」
その気持ちはもっともです。しかし、重要なのは別の点にあります。
下がる日を避けることは、本当に賢いのか
株式市場は、10年、20年という長い目で見ると、基本的に成長してきました。上がる日と下がる日を比べれば、上がる日のほうが多い。
下がる日を避けようとすればするほど、上がる日を逃す確率が高くなります。つまり、「下落回避」を狙う行為そのものが、分の悪い賭けなのです。
負けやすい賭けを、自分はもちろん、家族や友人に勧める人はいないでしょう。市場に居続けることでしか、上がる日を味わうことはできません。
沈みゆく船に残るという選択

株価が暴落している最中、何もせず、ただボーっと保有し続ける姿は、沈みゆく船から逃げ出さない愚か者のように見えるかもしれません。
しかし、不思議なことに、インデックス運用の世界では、この「愚か」に見える行為こそが正解であると、歴史が証明しています。
船から降りろという声は、これからも何度も聞くでしょう。飛び降りたい人は、飛び降りればいいのです。けれど、飛び降りた人が多いほど、船は軽くなり、進みやすくなります。
どんな嵐の中でも、自分が決めた航路を守り続けること。その先にこそ、稲妻の輝く瞬間と、長い航海の報酬が待っているのです。