「投資」と「貯蓄」どちらを優先するべきか解説

投資と貯蓄――資産形成における「順番」を誤らないために

投資と貯蓄――資産形成における「順番」を誤らないために

資産形成を考え始めたとき、誰もが一度は立ち止まって考える問いがあります。
それは、「投資と貯蓄のどちらを優先すべきなのか」という問題です。

この問いに対する答えを誤ることは、資産形成において致命的とは言わないまでも、遠回りになる原因となります。とりわけ初心者の段階では、投資に意識と時間を割きすぎてしまう“罠”にはまりやすいものです。

投資のことを四六時中考えてしまう。
相場の動きが気になり、情報収集に多くの時間を費やしてしまう。

こうした傾向に心当たりのある方は、決して少なくありません。本稿では、注意喚起を込めて、資産形成の初期段階における正しい力の配分について、丁寧に解説していきます。

いま、あなたはどこに力を注いでいますか

まずは、次の二つを静かに見比べてみてください。

  • 支出を見直し、毎月の貯金額を増やすこと
  • 投資戦略について考え続け、利回りを高めようとすること

どちらが重要かは、資産の状況や人生の段階によって異なります。しかし、資産形成を始めたばかりの時期においては、多くの場合、優先順位は明確です。

投資を始めたばかりの頃は、とにかく楽しいものです。
「この10万円が10倍になれば100万円になる」
「年利15%で運用できたら、20年後にはどれほどの資産になるだろう」

そんな想像をしていると、自然と胸が躍ります。ブログや書籍を読み漁り、SNSで投資インフルエンサーの発信を追い、有料のニュースサイトにも登録して、気づけば投資に多くの時間を使っている。そうした経験は、多くの人が通る道でしょう。

しかし、ここで一つ、冷静に考えてみる必要があります。
その時間の使い方は、資産形成という目的に対して、本当に有効なのでしょうか。

資産形成の初期段階では、利回りの影響は限定的

資産形成の初期段階では、利回りの影響は限定的

具体的な数字で考えてみましょう。

仮に、手元に100万円の資産があるとします。
年利7%で運用できれば、1年間の利益は7万円です。

では、努力を重ねて年利を10%まで高められたとしたらどうでしょうか。
利益は10万円になります。増えた金額は、わずか3万円です。

さらに言えば、S&P500や日経平均といった市場平均の利回りを、毎年1〜2%でも上回り続けることができれば、それはプロの世界でもトップクラスの成績です。つまり、利回りを安定して引き上げること自体が、極めて難しい行為なのです。

資産が500万円の場合でも、

  • 年利7%なら35万円
  • 年利10%なら50万円

差額は15万円にとどまります。
この差を得るために費やした時間や労力を、時給に換算してみると、決して割に合わないと感じる方も多いのではないでしょうか。

一方で、家計を見直し、年間の貯金額を10万円、20万円と増やすことはどうでしょう。投資のように相場変動のリスクを負う必要はありません。収入を増やす努力、支出を抑える工夫によって、着実に成果を積み上げることができます。

資産形成の初期段階では、利回りへの執着よりも、貯金額を増やす努力のほうが、資産全体に与える影響ははるかに大きいのです。

人の意識を狂わせる「将来の成功イメージ」

私が読んだある名著に、印象的な図表がありました。
それは、1年間の資産増加額を「貯金による増加」と「投資収益による増加」に分けて示したものです。

この図表を見ると、時間の経過とともに、資産増加に占める投資収益の割合が大きくなっていくことが分かります。資産規模が育つほど、投資が資産形成に果たす役割は増していくのです。

しかし、この事実が、時として人の判断を誤らせます。
将来の姿ばかりを思い描き、本来は貯金に集中すべき時期から、投資に力を入れすぎてしまうのです。

その結果、時間の使い方を誤ります。
貯金も増えず、投資に回せる資金も増えず、資産全体が思うように育たない――こうした悪循環に陥る人は少なくありません。

初期から中盤は、徹底して家計と向き合う時期

初期から中盤は、徹底して家計と向き合う時期

資産形成の初期から中盤にかけて、最も重要なのは投資戦略ではありません。
核となるのは、家計管理と収支改善です。

  • 収入をどう増やすか
  • 支出をどこまで削減できるか
  • その結果、毎月いくらを貯金・投資に回せるか

この時期は、貯金のペースを引き上げるための極めて重要な期間です。
にもかかわらず、投資の情報収集に時間を取られ、家計の見直しがおろそかになると、本末転倒と言わざるを得ません。

貯金が伸びなければ、投資額も増えません。
投資額が増えなければ、投資収益も大きくなりません。
結果として、資産形成そのものが停滞してしまうのです。

どうか、貯金と投資の優先順位を取り違えないでください。

最後に――胸に留めておきたい一つの問い

投資が資産形成に本格的に貢献し始めるのは、資産額がある程度の水準に達してからです。
ある書籍では、次のような問いが投げかけられています。

「予想される年間の貯金額と、予想される年間の投資収益額。どちらが多いか」

著者は、この問いに対して、こう答えています。

「予想貯金額のほうが多い人は、貯金を増やすことに集中すべきである」

たとえば、年間の貯金が100万円、年間の投資収益が50万円(1,000万円を年5%で運用)であれば、まだ貯金を重視すべき段階です。

一方で、すでに資産が1億円を超えているにもかかわらず、貯金の効率ばかりを追い求めているのであれば、人生における時間の使い方を見直す余地があるかもしれません。もっとも、貯金そのものが趣味であり、生きがいであるなら、それもまた一つの豊かな選択です。

誤解していただきたくないのは、貯金を重視すべき時期に、投資について考えること自体を否定しているわけではない、という点です。
学びと小さな実践を重ね、マネーリテラシーを育てることは、将来に向けた大切な準備です。

マネーリテラシーとは、経済的に自立し、より良い生活を送るためのお金に関する知識と判断力のこと。
それは一朝一夕で身につくものではありません。

だからこそ、資産形成の初期段階では、投資に時間とお金を使いすぎないこと
この機会に、ぜひご自身の時間の使い方を、静かに見つめ直してみてください。