まず見直すべき視点と、相続に対する基本的な考え方

相続について考え始めると、「相続税対策として保険に入ったほうがよいのだろうか」という疑問を持つ方は少なくありません。周囲から勧められたり、将来への不安から何となく検討したりする方も多いでしょう。しかし、相続税対策としての保険は、すべての人にとって本当に必要なものなのでしょうか。
本記事では、そもそも保険とは何のための仕組みなのかを整理した上で、相続が保険で備えるべきリスクに該当するのか、そして保険を検討する前に見直すべきポイントについて、丁寧に考えていきます。
保険の本来の役割とは何か
まず理解しておきたいのは、保険の本来の役割です。保険とは、発生する確率は極めて低いものの、万が一それが起きた場合に生活や人生に重大な損失をもたらす出来事に備えるための仕組みです。
代表的な例としては、働き盛りの年齢で亡くなり、配偶者や子どもが生活に困窮してしまったり、重大な事故を起こして多額の賠償責任を負ったり、あるいは火災によって自宅を失ってしまったりすることなどが挙げられます。これらはいずれも、発生頻度は高くありませんが、起こった場合の影響が非常に大きい出来事です。
保険は、こうした「起こると困ることになるが、起こる確率は低いこと」に対して、あらかじめ備えるための手段だといえます。
相続は保険で備えるべきリスクなのか
では、相続はこの考え方に当てはまるのでしょうか。結論からいえば、多くの場合、相続は保険が本来想定しているリスクとは性質が異なります。
相続は、誰にでもいつか必ず訪れる出来事です。しかも、そのタイミングは予測しにくいものの、避けられないものでもあります。さらに、相続が発生したからといって、必ずしも家族が生活に行き詰まるわけではありません。
相続税についても同様です。相続財産が多い場合には税金が発生しますが、さまざまな控除や特例が用意されており、実際の負担額は想像よりも小さくなることが少なくありません。特に、相続財産の大半が住居用の不動産であり、現金や預金が少ない場合でも、一定の条件を満たせば評価額が大きく引き下げられる仕組みがあります。
そのため、「相続が起きたら必ず多額の税金を払えなくなる」という状況に陥るケースは、実はそれほど多くないのです。
それでも問題になるのは納税資金の確保
ただし、すべてのケースで問題が起きないわけではありません。相続税そのものは軽減されても、納税のために使える現金が不足する可能性はあります。特に、不動産など換金しにくい資産が中心の場合、短期間で現金を用意することが難しくなることがあります。
もし、相続によって納税資金を確保できず、生活や資産の維持に大きな支障が出る可能性があるのであれば、そのとき初めて「備え」としての対策を考える意味が出てきます。その選択肢の一つとして、保険の活用を検討する余地がある、という位置づけになります。
重要なのは、「相続税対策だから保険に入る」という発想ではなく、「本当に困る状況が起こり得るのか」という視点で考えることです。
保険を検討する前に見直すべきこと

相続対策として保険を検討する前に、まず確認すべきことがあります。それは、自分の資産の全体像を正確に把握することです。不動産、預金、その他の資産がどの程度あり、相続が発生した場合にどのような扱いになるのかを整理する必要があります。
次に、相続税の仕組みや控除、特例について基本的な理解を持つことも重要です。これらを知らないままでは、実際よりも過大に不安を感じてしまい、必要以上の対策を取ってしまう可能性があります。
また、相続人となる家族の状況や、資産をどのように引き継いでほしいのかという意思も整理しておくべきです。誰がどの資産を受け取るのかによって、必要な現金の額やタイミングは大きく変わります。
私なりの相続と保険に対する考え方
相続において大切なのは、「万が一」に備えることよりも、「起こること」を前提に準備する姿勢だと考えています。相続は偶然の事故ではなく、時間をかけて向き合うことができる出来事です。
そのため、まずは資産の整理や家族との話し合いを通じて、無理のない形で相続を迎えられる状態を目指すことが重要です。その結果として、どうしても納税資金に不安が残る場合に限り、補助的な手段として保険を検討するのが自然な流れではないでしょうか。
保険は便利な仕組みですが、目的を誤ると過剰なコストになりかねません。相続税対策という言葉に振り回されるのではなく、自分や家族にとって本当に必要な備えは何なのかを冷静に考えることが、後悔しない選択につながります。
まとめ:不安からではなく、理解から判断する

相続税対策としての保険は、すべての人に必要なものではありません。相続の仕組みを正しく理解し、自分の資産状況を把握した上で、それでもなお大きなリスクがある場合に検討するものです。
不安だけを理由に対策を進めるのではなく、理解を深めた上で判断することが大切です。そうすることで、無理のない形で資産を引き継ぎ、家族にとっても安心できる相続を実現することができるでしょう。