お金に振り回されないために
――そのお金が本当に「あなたのもの」になるまで、少し立ち止まってみませんか
人生には、急に金回りが良くなる瞬間がある

人生には、不思議なほど突然、金回りが良くなる瞬間が訪れることがあります。
それは相続かもしれませんし、投資の成功かもしれません。あるいは、思い切った転職や独立の結果、収入が跳ね上がることもあるでしょう。
そんなとき、多くの人の胸にまず浮かぶのは、「このお金で何をしようか」という問いです。
けれども、ここにひとつ大きな落とし穴があります。実は、その問いそのものが、あなたをお金に振り回す入口になりかねないのです。
最初に考えるべきは「何に使うか」ではない
本当に最初にすべきことは、「このお金が、本当に自分のものなのか」を、時間をかけて確かめることです。
私たちは日本という国に暮らしているがゆえに、お金をとても安定した存在だと錯覚しがちです。銀行に預けたお金の数字は減らず、物価も比較的穏やかに推移してきました。今日の百万円は、明日も百万円。そう信じて疑わずに生きてきた人も多いでしょう。
お金は、実はとても気まぐれな存在

しかし、現実のお金は決してそんなにおとなしいものではありません。
株式や不動産の価格が日々動いていることは、多くの方がご存じでしょう。けれども、通貨そのものの価値もまた、静かに、しかし確実に揺れ動いています。かつて一ドル百円前後だった円が、百五十円近くまで下がったことを思い出してください。私たちは気づかぬうちに、価値の変化の波の中に立っているのです。
さらに見えにくいのが、労働の価値の変化です。海外では時給が大きく上昇し、日本との差は広がっています。お金の世界に「永遠の安定」はありません。流れは、ある日突然、向きを変えます。
「お金の川」は、いつまでも同じ場所を流れない
それにもかかわらず、人は金回りが良くなった途端、その流れが永遠に続くものだと勘違いしてしまいます。
証券口座の残高が一気に増えた。月収が何倍にもなった。そうした出来事は、あたかも自分の実力の証のように感じられるものです。そして、そのお金を前提に生活水準を引き上げてしまう。
しかし、そのお金は、たまたま自分の近くを流れてきただけの「お金の川」かもしれません。
流れが変われば、川は跡形もなく消えてしまうのです。
お金の流れを当てにすると、何も残らない
もし、そのお金の流れが止まったらどうなるでしょうか。
手元に残るものはなく、元の場所へ戻るしかありません。振り出しに戻る――それが現実です。後になって気づくのです。あのお金は、まだ自分のものではなかったのだと。
生活水準だけが上がり、資産も流れも残らない。これは決して珍しい話ではありません。
「待つこと」も、立派な投資判断

だからこそ、大切なのは「待つこと」です。
収入が増えたなら、その増えた分をすぐに使わない。投資で資産が膨らんだなら、その数字を生活の基準にしない。二年、三年と時間をかけて、それでもなお残り続けるかを見届けるのです。
増えた分を使わないことは、我慢ではありません。
それは、自分の人生を守るための、静かで賢明な判断です。
成功しても、慎ましさを失わない人たち
実際、大きな成功を収めながらも、慎ましい生活を続けている人は少なくありません。彼らは皆、口を揃えて言います。「調子に乗ってはいけない」と。お金の神様は、静かに梯子を外すことがあるのだと知っているからです。
ゆっくりでいいのです。慎重でいいのです。
生活水準は、後からでも上げられます。
お金に振り回されない投資家であるために
景気が良いとき、資産が増えているときこそ、一度立ち止まりましょう。
そのお金が、本当にあなたのものになるまで、静かに見守りましょう。
お金に人生を預けるのではなく、人生の手綱を自分で握るために。
一人も脱落することなく、堅実に、穏やかに。
小さな山を、確かな足取りで登り切る投資家でありたいものです。