数字とリスクから考える住まいの選択
「持ち家と賃貸、結局どちらが得なのか」というテーマは、長年にわたり議論され続けてきました。
土地が残る安心感や所有する満足感を重視する意見がある一方で、金銭面やリスクを考えると賃貸の方が合理的ではないか、という考え方も根強く存在します。
本記事では、この問題について「感情的な満足」と「金銭的な損得」を一度切り分け、特に数字とリスクの観点から整理していきます。そのうえで、どのような考え方で住まいを選ぶべきかを考察します。
そもそも住まいに何を求めているのか

住まいの選択において、まず考えるべきなのは「何を重視するのか」という点です。
生活するだけであれば、最小限の広さと機能を備えた住居で十分とも言えます。しかし実際には、多くの方が快適さ、広さ、立地、安心感など、精神的な豊かさも住まいに求めています。
そのため、住まいは単なる生活インフラではなく、「豊かに暮らすための手段」として選ばれることがほとんどです。
金銭的な合理性を優先するのか、所有する満足感や安心感を優先するのか、あるいはその両方をバランスよく取りたいのか。この前提条件によって、最適な選択は大きく変わります。
意見が分かれる理由は前提条件の違い
持ち家派と賃貸派の意見が大きく食い違う理由は、それぞれが異なる価値基準で話しているからです。
不動産業界に関わる方であれば購入を勧めるでしょうし、転勤が多い方や引っ越しを前提とした生活をしている方であれば賃貸を選ぶ可能性が高くなります。
つまり、「どちらが正しいか」という問い自体が成り立ちにくく、重要なのは自分自身の人生設計や価値観に合っているかどうかです。
ただし、その判断を感情だけで行ってしまうと、後々大きな負担を抱えることにもなりかねません。
数字の観点から見た持ち家の特徴
ここからは、感情論を一旦置き、「数字」と「リスク」に焦点を当てて考えていきます。
1.多くの住宅は資産ではなく負債になりやすい
一般的な住宅は、購入した瞬間から市場価値が下落することが多く、特に新築物件では購入価格の2~3割程度下がるケースも珍しくありません。
これは、販売価格に人件費や広告費、企業の利益などが含まれているためです。
将来、購入価格以上で売却できるのであれば資産と言えますが、そのような物件はごく一部に限られます。
多くの住宅は、時間の経過とともに価値が下がり、結果として負債として扱われることになります。
2.ローン完済後も住居費は発生し続ける
住宅ローンを完済すれば住居費がゼロになる、というイメージを持たれがちですが、実際にはそうではありません。
固定資産税、修繕費、マンションであれば管理費や修繕積立金など、所有している限り継続的な費用が発生します。
これらを月額に換算すると、数万円程度の支出になることも多く、「住宅費が完全になくなる」という状態はほぼ実現しません。
3.住宅ローンと金利変動のリスク
住宅ローンは長期間にわたる契約であり、返済不能リスクや金利変動リスクを伴います。
収入の減少、病気、離婚など、人生の変化によって返済が困難になる可能性は誰にでもあります。
また、現在は低金利が続いていますが、将来的に金利が上昇すれば、返済額が増えるリスクも否定できません。
災害・環境・家族構成の変化というリスク

持ち家には、金銭面以外のリスクも存在します。
地震や火災などの災害リスク、欠陥住宅や設備不良のリスク、さらには周辺環境の変化など、自身ではコントロールできない要素も多く含まれます。
また、家族構成は時間とともに変化します。
子どもの独立後に広すぎる家を持て余すケースも多く、柔軟に住み替えができる賃貸と比べると対応力は低くなります。
土地が残る=得とは限らない
「土地が残るから価値がゼロにはならない」という意見もありますが、重要なのは購入価格と売却価格の差です。
仮に土地の実勢価値が1,000万円であれば、それ以下で購入できて初めて資産と言えます。
高値で購入してしまえば、たとえ土地が残ったとしても金銭的には損失となります。
将来、土地を子どもに残すことを考えるのであれば、現金や流動性の高い資産を残すという選択肢も十分に検討すべきでしょう。
賃貸と持ち家、どちらを選ぶべきか

結論として、「持ち家か賃貸か、どちらが得か」という問いに一律の正解はありません。
重要なのは、以下の点を理解したうえで選択することです。
- 持ち家は多くのリスクを引き受ける選択である
- 多くの住宅は資産ではなく負債になりやすい
- 感情的な満足と金銭的合理性は分けて考える必要がある
そのうえで、金銭的な合理性を優先するのか、心の満足を優先するのか、自身の価値観に照らして判断することが大切です。
おわりに
住まいは人生の中でも特に大きな選択の一つです。
だからこそ、「なんとなく」「資産になると思って」といった曖昧な理由で決断するのではなく、数字とリスクを冷静に把握したうえで、感情を重ねて判断することが重要です。
持ち家も賃貸も、それぞれにメリットとデメリットがあります。
本記事が、ご自身にとって納得のいく住まい選びを考える一助となれば幸いです。