個人年金保険は本当にお得なのか?―「節税で利回り5〜10%」の誤解を徹底解説

将来に備えて個人年金保険を検討する人は少なくありません。特に、「節税効果を含めると利回りが5〜10%になる」「税金が安くなるから、やらないと損」という声は非常に多いものです。しかし結論から言えば、**個人年金保険は基本的に“不要”**です。
その理由は明確で、商品の本質が「超低利回り」であり、多くの人が「節税効果」を誤って利回りに換算してしまっているからです。
本記事では、なぜこの誤解が生まれるのか、そして本来どう利回りを計算すべきなのかを、丁寧に解説していきます。
個人年金保険の基本構造を知る
まず理解しておくべきは、個人年金保険は「私的年金」に分類される商品だということです。
● 公的年金と私的年金
- 公的年金…国民年金・厚生年金など、強制加入。
- 私的年金…任意加入。iDeCo、企業型DC、企業年金、そして個人年金保険。
個人年金保険とは、公的年金だけでは不足する老後資金を補うための“上乗せ年金”です。しかし、その受給期間・受給額は商品によってバラバラで、契約時点で金額が確定するタイプもあれば、将来にならないと受取額が分からないタイプもあります。
たとえば代表的なプランのひとつとして、以下のような例がよくあります。
- 30歳〜65歳まで毎年12万円の保険料を支払う(総額420万円)
- 65歳〜75歳の10年間で、総額441万円を受け取る
返戻率は105.2%。つまり、35年間積み立てた420万円が、わずか21万円増えるだけ。この時点で非常に低利回りであることがわかります。
ではなぜ「利回り5〜10%」と誤解されるのか?

その理由は、保険会社が強調する「節税効果」にあります。
● 個人年金保険料控除による節税とは
保険料の支払いに応じて、以下の控除が受けられます。
- 所得税:最大4万円控除
- 住民税:最大2.8万円控除
この控除により、税金が少し安くなるわけです。
例えば、所得税率10%、住民税率10%の人なら……
- 所得税:4万円 × 10%=4,000円
- 住民税:2.8万円 × 10%=2,800円
→ 合計 6,800円の節税
保険料12万円に対して6,800円の節税ということで、
6,800 ÷ 120,000 = 約5.67%
という数字だけを見ると「5%を超える利回り」と錯覚してしまいます。
しかし、この計算には重大な欠陥があります。
節税効果は“その年だけ”であり、複利になっていない
保険料控除の節税効果は、支払った年だけです。
つまり1年目に払った12万円は、その後の年には何の節税にもつながらず、完全に“死に金”になります。
ところが、多くの人は単年度の節税額を永続的な利回りのように捉えてしまい、
「毎年5.67%の利回りが得られる」
と誤解してしまうわけです。
実際には、累計の保険料が積み上がるほど、単年度の節税額は相対的に薄まり、利回りは急激に低下していきます。
- 1年目:5.67%
- 2年目:2.83%
- 10年目:0.57%
これが現実です。
正しい利回り計算は「IRR(内部収益率)」で行う

投資商品の本当の収益率を測る方法が「IRR(内部収益率)」です。
IRRとは、複利の利回りを表す指標であり、投資の真のリターンを測る際によく使われます。
● IRRの計算はとても簡単
ExcelやGoogleスプレッドシートのIRR関数を使うだけです。
計算式に必要なのは以下の2つ。
- 投資期間
- 毎年のキャッシュフロー(入金+、出金−)
たとえば先ほどの個人年金保険の例をIRRで計算すると……
- 35年間で毎年12万円の支払い(節税効果で実質113,200円の支払いとする)
- 65歳から10年間で毎年44.1万円を受給
これをIRRで計算すると、結果は 0.47%。
つまり、節税効果をフルに含めても複利0.47%しかないのです。
さらに、高所得者で税率40%以上のケースでも、IRRはせいぜい 0.96%。
平均的な所得の人なら 0.5%前後が現実的です。
45年間の資金拘束で利回り0.47%…本当にお得?
0.4〜0.5%という利回りは、ほぼ定期預金と同程度。
しかも個人年金保険には以下のリスクがあります。
- 流動性リスク:途中解約は元本割れ
- インフレリスク:将来の物価上昇に完全に負ける
- 金利リスク:契約後の金利上昇で相対的に損をする
これらのリスクを負った結果が0.47%という低利回りです。
「ノーリスクで利回り5%」などという誤解は完全に幻想だとわかります。
なぜ人は誤解するのか?営業の“数字マジック”に注意
投資商品には必ず
- 投資期間
- キャッシュフロー
という2つの要素があります。
本来はそれらを基準にIRRで比較しなければ正確な判断はできません。
しかし営業の現場では、
- リスクは小さく見せ
- リターンは最大限よく見える数字を強調する
というのが一般的です。
たとえば、
- 返戻率105.2%
- 節税効果で利回り5.67%
という数字だけを聞くと魅力的に映ります。
しかし、
- 複利0.47%
- 事実上インフレに完全敗北
- 45年間の資金拘束
と聞いたら、誰も飛びつかないでしょう。
つまり、提示される“都合の良い数字”に惑わされず、
自分で正しい計算ができることが重要なのです。
まとめ:節税の数字に騙されず、IRRで本質を見ること
- 個人年金保険は「私的年金」であり節税効果はある
- しかし、節税効果を利回り換算するとほぼ全員が計算を誤る
- 本来の利回りはIRRで計算すべき
- 実際の利回りは0.4〜0.6%程度
- インフレや資金拘束のリスクを考えると明らかに分が悪い
- 保険営業は都合の良い数字だけを提示しがち
- 情報に惑わされないためには、正しい知識を持つことが最大の防御になる
「知らないまま契約する」のと「理解した上で選ぶ」のでは、老後の資産形成に大きな差が生まれます。今回の内容を参考に、節税効果だけに惑わされず、本当に自分にとって必要な商品なのか、じっくり判断していきましょう。