――便利さの裏に潜む「次の一手」をどう見るべきか
三井住友フィナンシャルグループとSBIホールディングスが、準富裕層向けの新たな資産運用サービスを提供する新会社を設立すると発表しました。日本経済新聞などでも報じられたこのニュースは、一見すると「資産が増えてきた人にとって心強いサービスが始まる」という前向きな話に見えます。
しかし、このニュースは資産形成を順調に進めてきた人ほど、慎重に受け止めるべき内容でもあります。まだ資産がそれほど多くない人にとっても、将来のためにぜひ知っておいてほしいポイントが詰まっています。
新サービスの概要――鍵となるのは「Olive」

今回の新サービスの中心にあるのが、三井住友銀行が提供する個人向け総合金融サービス**「Olive(オリーブ)」**です。Oliveは、銀行口座、クレジットカード、決済、ポイント、資産運用などを一体化したサービスで、いわば「三井住友版の経済圏」とも言える存在です。
Oliveを利用すると、
- キャッシュカードとクレジットカードが一体化した高還元カードが使える
- 利用状況に応じてVポイントが貯まる
- 貯まったポイントを買い物や投資に使える
- 専用アプリひとつで資産管理が完結する
といった「便利さ」と「お得さ」を感じられる仕組みになっています。実際、2023年3月のサービス開始から約2年で、利用者数は570万人規模にまで拡大しました。
初心者の次は「準富裕層」へ
ここが今回のニュースの本質です。
Oliveはこれまで、主に投資初心者や一般層を取り込む役割を果たしてきました。しかし、利用者の中には、近年の株式市場の上昇などを背景に、資産を数千万円規模まで増やした人も少なくありません。
三井住友FGとSBIは、そうした層を「準富裕層」と位置づけ、
- 投資信託にとどまらない資産運用
- 個別株、債券、場合によっては非公開資産まで含めた提案
- 有人によるコンサルティング
を提供していく方針です。新会社は3年で黒字化、5年で税引前利益100億円を目標に掲げています。これは、決して小さな事業ではありません。
「丁寧な助言」は本当に中立なのか
ここで一度、冷静に考える必要があります。
金融機関が提供する「投資助言」や「コンサルティング」は、言葉の響きこそ魅力的ですが、その実態はどうでしょうか。
多くの場合、金融機関の収益源は手数料です。つまり、
「顧客にとって最適かどうか」よりも
「自社の利益につながる商品かどうか」
が判断基準になりがちです。
新会社が目指す利益100億円は、どこから生まれるのか。
それは、他ならぬ利用者の資産から生まれる手数料です。
この構造を理解せずに「プロがついてくれるから安心」と考えるのは、少し危ういと言えるでしょう。
非公開資産は本当に魅力的か

準富裕層向けサービスでよく持ち出されるのが「非公開資産」です。未上場株、不動産投資、インフラ投資などがその代表例です。
確かに、数十億円規模の資産を持つ超富裕層であれば、リスクを分散する一手段として意味を持つ場合もあります。しかし、資産数千万円規模の個人投資家にとって、本当に有利な非公開投資の話が回ってくる可能性は極めて低いのが現実です。
しかも、「向こうから勧めてくる」非公開投資である以上、条件が良いとは考えにくいでしょう。
うまくいった理由を忘れないこと

そもそも、なぜ金融機関に狙われる「準富裕層」になれたのでしょうか。
多くの人は、
- 本業でしっかり稼ぎ
- 家計を管理し
- インデックスファンドなどの低コストで堅実な投資を続け
- 詐欺や過剰な商品を避けてきた
からこそ、資産を増やしてきたはずです。
その成功パターンを捨てて、「富裕層向け」「特別な運用」という言葉に惹かれてしまうと、これまでの努力が無駄になる可能性があります。
「富裕層専用の魔法の資産運用」など存在しません。
まとめ――便利さの先にあるリスクを意識する
三井住友FGとSBIホールディングスによる準富裕層向けサービスは、企業戦略としては非常に合理的です。しかし、利用者側にとってそれが必ずしもプラスになるとは限りません。
特に、
- Oliveを利用している人
- 資産が数千万円規模に増えてきた人
は、「勧められるから利用する」のではなく、なぜ勧められているのかを一度立ち止まって考えることが重要です。
資産形成で最も大切なのは、新しいサービスに乗ることではなく、これまでうまくいってきたことを、淡々と続けることなのかもしれません。