近年、「お金」に関するニュースでよく見かけるようになった言葉があります。
それが 「預金以上、投資未満」 というフレーズです。
日経新聞でも取り上げられたように、
「リスクはできるだけ避けたい。でも将来のために資産形成はしておきたい」
そんな一見すると相反する願いを抱く若者が増えています。
新NISA制度のスタートによって投資への注目度は高まっていますが、20代を中心に「投資=怖いもの」「損をしそう」という心理的ハードルはいまだに高いままです。
その結果、「預金だけでは増えないのは分かっているが、投資には踏み出せない」という層が一定数存在しています。
この“あいまいな不安”と“中途半端な安心志向”に目を付けたのが、生命保険会社です。
若者向けに相次いで登場する積立型保険

最近、生命保険会社が若者向けとして売り出しているのが、少額から始められる積立型の保険商品です。
代表的なものとして、住友生命の「Chakin」や、日本生命の「ちょこつみ」があります。
たとえば「Chakin」は、
- 月5,000円から積立可能
- 死亡保障が付いている
- 積み立てた保険料は国債などの低リスク資産で運用
- 保険料の払い込み期間は5年、保険期間は10年
- 満期まで続けると返戻率は約106%
という内容になっています。
一見すると、「元本割れの心配が少なそう」「預金よりは増えそう」「保険も付いていて安心」と、魅力的に映るかもしれません。
実際に記事では、都内に住む20代の会社員が「預金より利回りが高い点に魅力を感じて加入した」と紹介されています。
なぜ保険会社は若者をターゲットにするのか
では、なぜ保険会社はこうした商品を相次いで投入しているのでしょうか。
理由は大きく分けて2つあります。
1つ目は、若者がリスクを極端に嫌う傾向があることです。
金融庁のデータによると、20代のNISA口座数は高齢層と比べても少なく、本来もっとも長期投資に向いている年代にもかかわらず、投資に消極的な姿勢が見られます。
2つ目は、保険会社側の顧客高齢化問題です。
20代の生命保険加入率は約5割強にとどまり、30代以降の7~8割と比べて明らかに低い水準です。
つまり保険会社にとっては、
「若いうちから接点を持ち、保険に親しんでもらうこと」
が重要な経営課題になっています。
積立型保険は、その入り口として非常に都合の良い商品です。
一度契約してもらえれば、将来的に医療保険や終身保険など、別の商品を提案することも可能になります。
商品開発力、ニーズを嗅ぎ取る力、営業力。
このあたりは、さすが保険会社だと感じる部分でもあります。
「返戻率106%」の本当の意味
ただし、ここで冷静に見ておかなければならないポイントがあります。
「返戻率106%」という数字は、一見すると「6%も増える」ように感じますが、
これは 10年間トータルで見た場合の数字 です。
これを年利に換算すると、およそ0.7%程度 になります。
年利0.7%と聞くと、印象はかなり変わるのではないでしょうか。
現在、日本国債の利回りは、
- 5年物で約1%前後
- 10年物で約1.5%前後
となっています。
こうして比較すると、「預金以上、投資未満」という言葉が、数字の見せ方によって作られたイメージであることが分かります。
リスクを取りたくないなら、期待値も下がる

ここで、はっきりさせておきたいことがあります。
リスクを一切取りたくないのであれば、大きな資産形成は望めません。
これは精神論ではなく、資産形成の構造上の事実です。
資産形成の目的が、
「とにかく減らさずに少し貯められればいい」
というものであれば、こうした積立型保険や預金にも一定の意味はあるでしょう。
しかし、
- 将来のお金の不安を減らしたい
- 人生の選択肢を広げたい
- 経済的な余裕を持ちたい
こうした目的を持つのであれば、利回り0.7%の商品が主役になることはありません。
適切なリスクとは何か
「リスクを取る」と聞くと、ギャンブルのようなイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし、ここで言うリスクとは、
無謀な投機や一発逆転を狙う行為ではありません。
- 長期で続ける
- 投資先を分散する
- 低コストの商品を選ぶ
こうした基本を守った投資は、リスクを抑えながら成長を狙う現実的な方法です。
特に若いうちは「時間」という最大の武器があります。
時間を味方につけられる年代で、過度にリスクを恐れすぎることは、逆に将来の可能性を狭めてしまうことにもなりかねません。
「何もしない」ことにもリスクはある
忘れてはいけないのが、
「リスクを取らないこと自体がリスクになる場合もある」 という点です。
物価の上昇、税制や社会保障制度の変化などによって、
何もしないままでも、実質的にお金の価値が目減りしていく可能性は十分にあります。
現状維持を選んだつもりが、気づいたときには取り残されている。
そんな「ゆでガエル」の状態にならないためにも、最低限の金融リテラシーは欠かせません。
まとめ:役割を混同しないことが大切

最後に、ポイントを整理しましょう。
- 保険は「保障」のためのもの
- 貯金は「守る」ためのもの
- 投資は「増やす」ためのもの
それぞれには明確な役割があります。
保障が必要なら、シンプルで割安な掛け捨て保険を選ぶ。
リスクを避けたいなら、素直に貯金をする。
お金を増やしたいなら、投資商品で適切にリスクを取る。
リスクとリターンは表裏一体です。
裕福な人たちは、リスクを理解し、コントロールしたうえで行動してきました。
「リスクは嫌だけど、お金は増やしたい」
その気持ち自体は自然ですが、現実を知ったうえで選択することが重要です。
若い世代が、「よく分からないまま保険で資産形成しているつもり」にならないことを、心から願っています。