――“貯める人生”から“使い切る人生”へ、発想を転換する時
日本人は「世界有数の貯蓄大国」と言われます。
コツコツ働き、無駄遣いを避け、将来のために備える。この姿勢は長らく美徳とされてきました。しかし、その一方で「貯めたまま使わない人生」になってしまっている人が多いのも事実です。
そんな日本人の価値観に、強烈な問いを投げかけているのが、世界的ベストセラーとなった書籍『DIE WITH ZERO(ゼロで死ね)』です。
著者であるビル・パーキンス氏は、「人生の終わりにお金を残すこと」ではなく、「人生の途中でお金を最大限、価値ある体験に変えること」を提唱しています。
日本経済新聞に掲載されたインタビューでは、まさに“節約ニッポン”に向けた重要なメッセージが語られていました。本記事では、その内容をかみ砕きながら、日本人にとって本当に大切な「お金との向き合い方」について考えていきます。
日本の高齢者は、なぜお金を使わないのか

内閣府の調査によると、日本の高齢者世帯が保有する金融資産は非常に多い水準にあります。
60代前半で一世帯あたり約1,800万円、そして驚くことに85歳を超えても約1,500万円もの金融資産を保有しているとされています。
つまり、多くの人が「老後のため」に貯めたお金を、老後になってもほとんど使っていないのです。
ピーク時から減っている金額は、わずか15%程度。この数字は、世界的に見てもかなり特異です。
これについて、ビル・パーキンス氏は非常にシンプルかつ厳しい言葉を投げかけています。
人生の目的は、働いて貯金することではない
この一言は、日本人の多くにとって胸が痛くなる言葉ではないでしょうか。
私たちはいつの間にか、「将来の不安」を理由に、人生の現在を犠牲にしてしまっているのかもしれません。
ビル・パーキンス氏自身は、どう生きているのか
「理想論ではなく、あなた自身はどうなのか?」
そう思う人もいるでしょう。しかし、ビル・パーキンス氏は、自らの人生でその哲学を実践しています。
彼は現在50代半ばですが、すでにピーク時の貯蓄の半分以上を使い切っているそうです。そして、それについてこう語っています。
「理想のペースで進んでいる」
彼にとって、50代前半の数年間は「人生のピーク」でした。
お金・健康・時間、この3つのバランスが最も良かった時期だと言います。
若い頃は、健康と時間はあってもお金がない。
中年期は、お金と健康はあっても時間がない。
老後は、お金と時間はあっても健康がない。
よく言われるこの法則の中で、3つが同時にそろう時期は、実はとても短いのです。
だから彼は、長距離の旅行や深夜までの外出など、「体力が必要な体験」を意識的に前倒しで行ってきました。
たとえ将来お金と時間があっても、体が動かなければできないことに、積極的に投資してきたのです。
「幸せ消費」とは何か

『DIE WITH ZERO』が一貫して訴えているのは、「浪費しろ」という話ではありません。
大切なのは、“幸せにつながる消費”を意識することです。
物は、いずれ慣れます。
しかし、体験や思い出は、時間が経つほど価値が増していきます。
誰かと行った旅行
子どもと過ごした時間
挑戦した経験や、失敗も含めた思い出
これらは、老後になっても心を豊かにしてくれます。
逆に、「あの時やっておけばよかった」という後悔は、取り戻すことができません。
失われた時間とチャンスは、二度と戻らないのです。
「老々相続」がもたらす問題
日本では、「子どもに財産を残すのが当たり前」という考え方が根強くあります。
しかし、ビル・パーキンス氏はこの点についても、はっきりと疑問を呈しています。
相続には、あまり意味がない
日本人の平均寿命は非常に長く、100歳まで生きることも珍しくありません。
そうなると、相続が発生する頃には、子どもは70代、場合によっては80代ということもあります。
いわゆる「老々相続」です。
70代になってからまとまったお金を受け取っても、そのお金を使って新しい体験をする力は、どうしても衰えています。
20代で1000万円を受け取るのと、70代で1000万円を受け取るのとでは、お金から引き出せる価値がまったく違うのです。
だから彼は、「死ぬまで貯め込む」のではなく、子どもが最もお金を必要とする20代後半〜30代半ばに、計画的に資金を渡すことをすすめています。
日本人に必要なのは「使う力」

日本人は、貯める力・我慢する力には非常に長けています。
しかし一方で、「使う力」を学ぶ機会はほとんどありませんでした。
・いつ、どれくらい使うべきか
・何に使えば、人生の満足度が高まるのか
・どこまで使っても大丈夫なのか
これらを考えずに、「とにかく不安だから貯める」という選択をしてしまう人が多いのです。
『DIE WITH ZERO』が教えてくれるのは、極端な浪費ではなく、バランスの取れた生き方です。
まとめ:貯めるだけの人生から卒業しよう
ビル・パーキンス氏が、日本人に贈る超重要なアドバイスは、次の3点に集約されます。
- 人生のピークを意識し、「使うべき時」に使う
- やりたいことを先延ばしせず、体験にお金を使う
- 子どもには、必要なタイミングでお金を渡す
85歳を過ぎても、貯蓄がピークから15%しか減っていないという事実は、決して誇るべきことではありません。
それは、「お金を人生に変えきれなかった人」が多いという証拠でもあるのです。
ちゃんと貯める。
ちゃんと稼ぐ。
そして、ちゃんと使う。
このバランスこそが、これからの日本人に求められるお金との付き合い方なのではないでしょうか。
「使う力」を育て、後悔のない思い出を増やしていきたいものですね。