家賃上昇の現実――東京23区で何が起きているのか

首都圏で暮らす人々にとって、近年の家賃上昇は無視できない現実となっています。日経新聞の記事によれば、東京23区の賃料は2004年以降の最高値を更新しました。直近1年間での上昇率は約9%に達し、体感としても「明らかに高くなった」と感じる人が増えています。
この背景には、賃料が高くても借り手を見つけやすい築浅物件の供給増があります。設備が新しく、利便性の高い物件が増えたことで、相場全体が押し上げられているのです。また、住宅価格が高騰し、購入を断念せざるを得ない層の需要が分譲賃貸に流れ込んでいることも大きな要因です。投資家が高級物件を賃貸に回す動きも、賃料上昇を後押ししています。
首都圏全体で進む賃料の上昇トレンド
東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県における分譲マンション賃料を、2019年から2025年までの1平方メートル当たり月額平均で比較すると、すべての地域で上昇トレンドが確認できます。なかでも東京23区の上昇幅は突出しており、この1年だけで9%も上昇しています。
日経新聞の見立てでは、首都圏(一都三県)の賃料は今後も高水準で安定的に推移する可能性が高いとされています。日本でもインフレが可視化されるなか、住居費が上がるのは自然な流れとも言えるでしょう。
「家賃が上がるなら家を買うべきか」という問い

こうした状況を前に、多くの人が次の疑問に直面します。「これだけ家賃が上がるなら、いっそ家を買ったほうがいいのではないか」。この問いは、今に始まったものではありません。しかし、答えは昔から変わっていないと私は考えています。
結論から言えば、住宅購入は不動産投資と同義です。住むための家であっても、そこに投じるお金は投資資金であり、感情ではなく数字で評価すべき対象です。
トータルリターンで考える住宅購入
不動産投資の利益は、売却益であるキャピタルゲインと、居住によって得られる家賃相当の価値、すなわちインカムゲインの二つから成り立ちます。この二つを合計したものがトータルリターンです。
将来、不動産価格が上昇し、高いトータルリターンが見込めるのであれば、家を買う合理性はあります。一方で、値上がりが期待できない、あるいは値下がりの可能性が高いと想定されるなら、家を買うべきではありません。これは株式や投資信託と何ら変わらない原則です。
「良い家」とは何か――感情と数字を切り離す
私はよく「良い家を買えるなら、買ったほうがいい」とお話しします。ただし、ここで言う良い家とは、デザインや好みの問題ではありません。資産価値が高く、トータルリターンが高い家のことです。
トータルリターンが高い家ならば、購入する価値があります。しかし現実には、そのような物件を誰もが買えるわけではありません。この点を理解するには、数字と感情を切り離して考える必要があります。
数字で見るシンプルな比較
たとえば、手元に3000万円あるとします。
・持ち家のトータルリターンが年3%
・S&P500連動のインデックスファンドのトータルリターンが年7%
この条件であれば、家を買わずにインデックスファンドに投資したほうが、長期的には資産が増えます。非常に単純な話です。投資の世界では、トータルリターンが高い商品こそが正義なのです。
事業の世界には「売上はすべてを癒す」という格言があります。投資に置き換えるなら、「高いトータルリターンはすべてを癒す」と言えるでしょう。逆に、トータルリターンの低い商品を選ぶことは、長期にわたる足かせになります。
家賃上昇への不安にどう向き合うか

「家賃が月2000円上がり、年間で2万4000円の負担増になった。やはり家を買うべきではないか」。こうした声も聞こえてきます。しかし、冷静に考えてみましょう。
投資しているインデックスファンドが年2万4000円値上がりしていれば、その負担は相殺できます。高配当株が年2万4000円増配していれば同じことです。さらに、家賃の値上げは一時的であり、法的に拒否できる場合もあります。
株とマイホーム、それぞれのリスク
もちろん、株式投資とマイホームではリスクの種類が異なります。株が大暴落し、「あのとき家を買っておけばよかった」と思う可能性も否定できません。しかし、住宅にも固有のリスクがあります。
不動産価格の下落、隣人トラブル、リストラによるローン返済不能、欠陥住宅の問題。これらは一度発生すると、簡単に身動きが取れなくなります。
本質は変わらない――長期で儲かる選択を
結局のところ、家を買うにせよ、株を買うにせよ、本質は同じです。リスク許容度の範囲内で、高いトータルリターンを狙い、長期で育てること。家賃上昇という表面的な変化に惑わされず、この原則を守れる人は、原理的にいずれ資産を築くことができます。
住む家に困るような事態には、そう簡単には陥りません。焦らず、数字で考えること。それこそが、インフレ時代を生き抜く最大の武器なのです。