詐欺被害者をさらに苦しめる「着手金ビジネス」の実態
近年、投資や人間関係を装った詐欺の被害が急増しています。そうした被害に遭ってしまった人たちの不安や焦りにつけ込み、さらに金銭的・精神的な苦しみを与える行為が社会問題となっています。それがいわゆる「着手金ビジネス」です。
これは、詐欺被害に遭った人に対して「失ったお金を取り戻せる」「被害金の回収が可能だ」と強調し、実際には回収の見込みがほとんどないにもかかわらず、高額な着手金だけを受け取る行為を指します。表向きは専門家として信頼されやすい立場の人間が関与しているケースも多く、被害は全国的に広がっています。
被害回復をうたった甘い言葉の裏側

投資詐欺や恋愛感情を利用した詐欺に遭ってしまうと、多くの人は強い後悔や自責の念に駆られます。「なぜあのとき信じてしまったのか」「少しでもお金を取り戻したい」と思うのは自然な感情です。
そうした心理状態の中で目に入るのが、「被害金を回収できる」「泣き寝入りせずに相談を」「返金成功実績多数」といった広告や投稿です。一見すると怪しさを感じる人もいますが、発信元が専門家の事務所であると知ると、多くの人は警戒心を弱めてしまいます。
一般的に専門資格を持つ人は、「難関試験を突破した信頼できる存在」「困っている人を守る職業」というイメージがあります。そのため、「専門家が言うなら大丈夫だろう」「少しでも被害額が減るなら意味がある」と考え、数十万円単位の着手金を支払ってしまうのです。
しかし実際には、回収の見込みがほぼない案件であるにもかかわらず、十分な説明がされないまま契約が結ばれ、その後ほとんど進展がない、連絡が取れなくなるといったケースが多発しています。
本来であれば、相談を受けた時点で「この案件は回収が極めて困難である」「費用をかけても結果が出ない可能性が高い」と、冷静かつ具体的に説明されるべきです。回収できたとしても金額がわずかで、時間や費用に見合わないのであれば、依頼を止める選択肢を提示することも重要です。
誠実な専門家であれば、数字や現実を示しつつ、相談者の感情にも配慮しながら判断材料を提供します。しかし中には、説明を省き、「とにかくできます」「まずは契約を」と急がせ、着手金だけを目的にする人も存在します。
このような行為は、専門家への信頼そのものを損なうだけでなく、社会全体に大きな不信感を広げてしまいます。
「詐欺に遭ったお金は返ってこない」という現実

非常に厳しい話ですが、ここで強調しておくべき現実があります。それは、「詐欺に遭ったお金は、ほとんどの場合返ってこない」ということです。
被害届が受理され、加害者が特定されたとしても、すでにお金は引き出されていたり、使い切られていたりするケースが大半です。裁判で支払い命令が出たとしても、相手に資力や返済意思がなければ、実際に回収することはできません。
「警察に相談すれば」「裁判を起こせば」と期待を抱きたくなる気持ちは理解できますが、現実的には返還されるケースはごくわずかです。この現実を知らないまま、「取り戻せる」という言葉に希望を託してしまうと、さらに傷が深くなります。
大切なのは「守る力」を身につけること
だからこそ重要なのは、「失ったお金を取り戻すこと」よりも、「奪われないこと」です。長年かけて貯めた資産も、詐欺に遭えば一瞬で失われてしまいます。
さらに、詐欺被害の後に不適切な相談先を選んでしまえば、精神的にも金銭的にも大きなダメージを受けます。守る力とは、知識だけでなく、「うまい話を疑う姿勢」「即断しない習慣」「第三者に相談する冷静さ」など、日常の判断力の積み重ねです。
資格や肩書きだけでは信頼できない時代

今回の問題は、「資格を持っている=安心」という考え方が、必ずしも通用しない時代になっていることも示しています。難関資格を取得していても、安定した収入を得られていない人は少なくありません。
これは弁護士に限った話でなく、どんな人にも当てはまる可能性はあります。収入が不安定な中で、広告会社などの甘い提案に乗り、本来あるべき倫理観を失ってしまうケースも存在します。資格や知識は重要ですが、それだけで人の信頼や収入が保証されるわけではありません。
そういった場面で本当に必要なのは、目の前の人に価値を提供し、長期的な信頼関係を築く姿勢です。短期的な利益を追い求める行為は、結果的に自分自身の信用を壊すことになります。
まとめ:現実を知り、冷静に自分を守る
詐欺被害は誰にでも起こり得ます。そして、被害後の判断を誤ると、さらに深刻な状況に陥ってしまいます。「必ず取り戻せる」「今すぐ行動を」といった言葉ほど、慎重に受け止める必要があります。
大切なのは、厳しい現実から目を背けず、冷静に判断すること。そして、何よりも「奪われない力」を日頃から身につけておくことです。この問題を知ること自体が、あなた自身や周囲の人を守る第一歩になるはずです。